福井地方裁判所 昭和50年(わ)145号 判決 1978年4月25日
本店所在地
福井県鯖江市莇生田町二三号八番地
商号
貨泉プラスチツク株式会社
代表者
右代表者代表取締役 貨泉泉
本籍
福井県鯖江市莇生田町二三号八番地
住居
右同所
会社役員
貨泉泉
大正九年一一月一日生
右両名に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官桐生哲雄出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人貨泉プラスチツク株式会社を罰金五五〇万円に処する。
被告人貨泉泉を懲役六月に処する。
被告人貨泉泉につきこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用中証人松井哲男(二回)、同前出正視(三回)に支給した分は被告人両名の連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告会社は、福井県鯖江市莇生田町二三の八に本社を置き、プラスチツク加工販売業を営んでいるもの、被告人貨泉泉は右会社の代表取締役として、その業務全般を統括しているものであるが、被告人貨泉泉は被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て
第一、昭和四六年六月一日から同四七年五月三一日までの事業年度における被告会社の所得金額は五四、〇二一、四九六円で、これに対する法人税額は一九、四四七、〇〇〇円であるのに、同会社の売上の一部を正規の帳簿上より除外して、これを鯖江信用金庫本店等に架空名義で預け入れる等の不正手段により、その所得の一部を秘匿したうえ、昭和四七年七月三一日、武生市中央一丁目六-一二所在の武生税務署において、同署長に対し、所得金額三〇、一六七、六八九円で、これに対する法人税額は一〇、六八〇、七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、同会社の上記事業年度の正規の法人税額一九、四四七、〇〇〇円との差額八、七六六、三〇〇円をほ脱し
第二、昭和四七年六月一日から同四八年五月二一日までの事業年度における被告会社の所得金額は七七、五一五、九九九円で、これに対する法人税額は二八、〇三五、八八三円であるのに、前記第一記載と同様の不正手段によりその所得の一部を秘匿したうえ、同四八年七月三一日前記武生税務署において、同署長に対し、所得金額が四八、一七四、九一〇円でこれに対する法人税額は一七、二五三、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、同会社の上記事業年度の正規の法人税額二八、〇三五、八三三円との差額一〇、七八二、八八三円をほ脱し
たものである。
(証拠の標目)
判示両事実は
一、大蔵事務官作成の被告人貨泉泉に対する質問顛末書一一通及び同被告人の検察官に対する供述調書三通
一、証人松井哲男の当公判廷における供述(第五回、第一一回公判)及び同人作成の告発書
一、証人前田正視の当公判廷における供述(第九回、第二〇回、第二一回公判)及び同人作成の査察事件調査事績報告書八通
一、証人都竹淑浩の証人尋問調書
一、田井正樹作成の査察事件調査事績報告書一〇通
一、山元肇作成の査察事件調査事績報告書三通
一、貨泉澄男の検察官に対する昭和五〇年五月三〇日付供述調書抄本
一、被告人貨泉泉作成の法人税申告書写二通
一、吉崎宇右衛門作成上申書
一、武生税務署長の青色申告の承認取消通知書
一、個人収支検討表写
を綜合してこれを認める。
(事実認定の補足的説明並びに弁護人の主張に対する判断)
一、架空仕入れについて
被告会社は昭和四八年五月期において、同会社が(1)「山本インキ」(2)「光栄化学」(3)「埼玉化工」(4)「松岡義信」からプラスチツク原材料ABS樹脂六〇〇万円相当の仕入れをした旨確定申告書を提出しているので、この点を検討するに、先づ、埼玉化工の金三七五、〇〇〇円と松岡義信の金八四五、〇〇〇円については証人貨泉澄男(第七回公判)同貨泉秋男(第八回公判)の各証言、同中村政一の証人尋問調書、右(3)(4)両名名義で発行された各領収書によれば、被告会社は坊山厚次の世話で埼玉化工を通じて右二枚の領収書に記載された数字と同額の仕入れをしたことが認められる。もつとも、松岡義信の分については埼玉化工の製品ではなく、商社(社名不明)の横流し品であり、松岡義信というのも埼玉化工の一社員の氏名を流用したものであることが認められるものの、被告会社の総勘定元帳のこの点の記載を併せ考えれば、右仕入れの事実そのものを否定することはできない。
次に、光栄化学の金八八〇、〇〇〇円であるが、前記証人貨泉秋男の証言及び同福江啓安、同高谷昌甫の各証人尋問調書によると、被告会社は右福江の仲介により昭和四八年五月二一日右仕入れをし、即日この代金の支払をしたことが認められ、福江啓安作成の供述書もこの認定を左右するものではない。
ただ山本インキの金三、九〇〇、〇〇〇円については、証人都竹淑浩の証人尋問調書によると、被告会社が山本インキから仕入れをしたというのは、同年六月になつてから大日精化を介して二回購入したものであることが認められる一方、前記証人貨泉澄男、同貨泉秋男の各証言、ルーズリーフメモの記載によれば、同年五月二一日被告会社は此迄取引のなかつた山本なるブローカーと氏名不詳者から合計三、九〇〇、〇〇〇円余の仕入れをしたかに窺われなくもない。しかし、右ルーズリーフメモの記載も必ずしも明確なものでないことや証人貨泉澄男の総勘定元帳の記載は誤記である旨の証言は甚だ便宜的説明であることからすれば、本件各証拠から認められる当時の品薄からくる混乱した状況というものを念頭においても、山本からの仕入れが昭和四八年五月中に行われたとの心証を得ることはできず、架空仕入に関する事実のうち、この点については被告人両名、弁護人の主張は肯認できない。
二、受取利息について
昭和四七年五月期、同四八年五月期の各受取利息分の発生源である仮名預金につき、被告会社のものだけでなく個人に帰属するものも混つているかどうかにつき検討するに、個人分が含まれている旨主張する被告人両名もいずれの仮名預金が個人のものなのか明確に主張しないのであるが、しかし、右発生源たる仮名預金については被告会社の売上除外額分だけで充分それにまわすだけの余裕のあることが証人前田正視の証言(第二〇回、第二一回公判)からゆうに認められ、被告人兼被告会社代表者貨泉泉も検察官に対する供述調書中でこれを自認するところであり、このことは前記架空仕入分のうち金三九〇万円を除く金二一〇万円を真実仕入れがあつたものとして計算してもなおかわらないところである。
しかも、貨泉秋男が河和田工芸から貸金の返済として受取つた手形につき、これを吉川清右ヱ門の普通預金口座で取立をし、さらに福井銀行等へ仮名で預金していることが認められるものの、これらの仮名預金については山元肇の査察事件調査事績報告書(昭和五〇年一月二七日付)によれば、両期とも未だ利息は発生しないものとして計算されており、本件犯則の受取利息の中には右仮名預金の利息は含まれていないことが認められるところである。
また、昭和四六年五月期末の仮名預金九、三二七万円余の発生源についても、これらに昭和四〇年の被告会社設立以前からのものが含まれていることを認めるに足りる証拠はないこと等から、本件受取利息はいずれも被告会社に帰属するものと認めるのが相当である。
三、青色申告承認取消の効果について
被告会社は昭和五〇年八月一八日に昭和四七年五月期にさかのぼつて青色申告承認の取消をされたものであるが、被告人貨泉泉が被告会社の業務に関し判示のような方法で法人税額のほ脱行為をしたのであるから、その結果として青色申告の承認を取消されるであろうことはその行為時において当然認識できた筈であつて、右のようにさかのぼつてその承認を取消された場合におけるその事業年度におけるほ脱額は青色申告の承認がないものとして計算した法人税額から申告にかかる税額を差し引いた額であるといわなければならない。従つてこの点についての弁護人の主張も採用できない。
(法令の適用)
被告会社の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項、一六四条に、被告人貨泉泉の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項にそれぞれ該当するところ、被告人貨泉泉についてはいずれの罪についても所定刑中懲役刑を選択し、被告人両名の以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項に従い所定罰金額の合算額の範囲内で処断すべく、被告会社を罰金五五〇万円に処し、被告人貨泉泉については同法四五条前段、四七条本文、一〇条に従い犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役六月に処したうえ、情状を酌量し同法二五条一項を適用して三年間右懲役刑の執行を猶予することとし、訴訟費用中証人松井哲男(二回)、同前田正視(三回)に支給した分は刑事訴訟法一八一条、一八二条に則り被告人両名の連帯負担とする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 宮本増)